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言の葉巡り vol.24 vol.24

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坂下玄哲先生(慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 准教授)

坂下玄哲先生(慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 准教授)

共に過ごす時間や会話を通して、価値観をシェアする母と娘

インタビュアー:ココロス研究会 以下 ココ

ココロスの今年の研究テーマ「母と娘の共同行動がもたらす心理的な変化」についてのインタビュー第5回目です。今回は、消費者行動論がご専門で母娘の関係性についての研究を進めておられる慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授の坂下玄哲先生にお話をうかがいました。フランスと日本の母娘の比較などを交えながら、日本の母娘の特徴をはじめ様々なお話をいただきました。

多くの国で共通する母と娘の関係性の特徴とは?

  • ココ
    これまでの先生の母娘に関する研究について教えてください。
  • 坂下
    私の専門である消費者行動の研究では、高校や大学への進学、就職や結婚といったライフステージの移行期において、人は自分のイメージを大きく変えようとする傾向が明らかです。自己像を演出するために新たなファッションアイテムを購入しますが、買い物をしている様子を観察していると、その時に同行した母親や友人の影響を大きく受けながら購入していることがわかってきました。
  • ココ
    買い物において、母は娘にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
  • 坂下
    母と娘の会話や表情に着目して2人の関係性を研究していくと、「母が娘を所有する」という特徴が見えてきました。母にとっての娘の位置づけについて理解するために、数年前に調査を実施しました。40代後半から50代前半の母と22〜23歳の大学生の娘、6組を対象に、卒業後の就職に向けた時期に「娘さんのイメージを大きく変えるようなイメチェンのためのアイテムを、カタログショッピングで一緒に選んでください」という依頼をしたのです。
  • ココ
    母と娘はどのように商品を選んでいきましたか。
  • 坂下

    30〜40分程度カタログをめくりながら、母が「いいじゃないの、これ」と言うと、娘は「これ、かわいいね」といった様なコミュニケーションを繰り広げました。そこでは、言葉のやりとりだけではなく、めくばせや、じっと見つめ合ったり、にやっと笑ったりという行為があり、言葉で伝える以上のやりとりが母と娘の間にはあったようでした。

  • ココ
    母の希望と娘の気持ちが対立することはなかったのですか。
  • 坂下

    ある母娘がスーツを選ぶ際に、母はパンツ、娘はスカートと意見が分かれました。その後のインタビューで「なぜパンツを奨めたのか」と母に聞くと、興味深い答が返ってきました。「最近、仕事一筋で生きてきた元の同僚に会いました。私もずっと仕事を続けていたら、今とは全く別の人生があったかもしれないと思ったのです」と。今も十分に幸せでいながら、あったかもしれないもう一方の人生にこだわっているようで、「だから娘には丸ノ内のOLになってもらいたいの。丸ノ内ならスカートではなくパンツでしょ」という言葉が続いたのでした。

  • ココ
    娘は母親の希望に対して、どのような反応をしたのでしょうか。
  • 坂下

    娘は「スカートの方が大人っぽいイメージだからスカートを履いてみたい」と母に訴えましたが、「できる女はパンツじゃない?」「ジャケットにも合うし、応用範囲が広いわ」という母の説得に、じっと耳を傾けていました。この時は母のアドバイスは受け入れなかったものの、普段の買い物では、母の好みを考慮に入れながら商品を選んでいることが、その後のインタビューで明らかになりました。

  • ココ
    なぜ母の好みを考慮しながら商品を選ぶのでしょうか。
  • 坂下

    娘はインタビューで「母がいないと何を買えばよいのか決められない」「お金がかかる時は、絶対に母に見てもらわないと」とも言っていました。ですから、自分の考えとは異なる意見を母から投げかけられても、反発しなかったのです。以上のように、母が娘を通して仮想的に自己表現しようとする現象について、「拡張自己」というテーマで広く発表してきました。

  • ココ
    この研究に対する反応はいかがでしたか。
  • 坂下

    アメリカやヨーロッパで発表したら、驚いたことに「私たちの国でも同じような現象がある」という反響がありました。程度の差はあるにせよ、「母が娘を所有する」という現象は、多くの国でも起こっている母と娘の特徴的な関係性だったようです。アメリカで出版された本に掲載した際のタイトルは「Mother possessing daughter」でした。この掲載をきっかけにフランスで母娘を調査していた研究者から共同研究の提案がありました。今はその研究についてまとめているところです。

    image photo母と娘

  1. 多くの国で共通する母と娘の関係性の特徴とは?
  2. フランスと日本の母娘で異なる衣服のシェアリング行動
  3. 母の見た目の若返りは、娘への価値継承にプラス
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