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言の葉巡り vol.15 vol.15

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高山緑先生(慶應義塾大学 理工学部 准教授)

高山緑先生(慶應義塾大学 理工学部 准教授)

人は生涯を通じて発達し続け、幸福感の維持・向上につとめる

インタビュアー:ココロス研究会 以下 ココ

人が抱く幸福感や生活の満足度は、年齢を重ねるにつれてどのように変わっていくのかなどを、発達心理学の面から研究されている慶應義塾大学理工学部准教授の高山緑先生にお話をうかがいました。高齢期になって初めて豊かになる能力や、いくつになっても他者の役に立てることの自覚が幸福感や満足度につながる点など、様々なお話をいただきました。ぜひ、最後までお読みください。

寿命の長さと強い関連性を示す高齢期の幸福感

  • ココ
    現在の日本の高齢者の幸福感や満足度は、どの位なのでしょうか。
  • 高山
    85歳以上の方に実際に会って、いろいろとお話をうかがう機会も多いのですが、こちらが思っている以上に、「今、幸せです」と答える方が多いです。もちろん人生のすべてが思い通りになっているわけではありませんが、例えば、若い頃の戦争の時代に比べて、平和な生活が営めていることに、「今、幸せです」と答えるケースも見られます。高齢者のデータを見ていると、もちろん個人差はありますが、平均値から考えると、日本の高齢者の幸福感は比較的高いと指摘されます。
  • ココ
    現在の高齢者は、社会が大きく変化する中で年を重ねていますね。
  • 高山
    本当に大きな変化が社会で生じています。私がこの研究を始めようと思ったきっかけは、高齢者をずっと支え続けていた家族関係や地域社会が大きく変化し、これから先の高齢者のあり方が見えにくくなっていたことにありました。今から20年程前のことです。その頃は、高齢者からは「人生60年だと思っていたのにもう65歳になって、これから80歳までどう生きていったらよいのだろうか」と言う声も聞こえてきました。誰もが日本が直面している高齢社会のフロンティアとして最前線に立ち、現実と静かに対峙しながらも、ご自身がより良く生きていくための様々な工夫をしているのだと思います。だからこそ、「今、幸せです」と言えるのではないでしょうか。見栄を張るとか、強がりを言うのではなく、自然体でご自身の生き様を捉えています。「若い頃に比べれば、いろいろなことができなくなっているし、それは悲しいこと。でも、これが年をとることです」とまっすぐに受け止めている点が、すごいと思います。だからこそ、「こんなこともできる、あんなこともできる」という前向きな思いでいられるのかもしれません。
  • ココ
    できないことは少しずつ増えても、考え方次第で前向きになれるのでしょうか。
  • 高山

    前向きになれると思います。一人暮らしの85歳の女性に会った時の話です。その方は裁縫が大好きで、その時に着ていたものも全部ご自分でつくられたものでした。ただ、針に糸を通すことはもうできなくなってしまったそうで、「今はどうされているのですか」と尋ねると、「近くに住む息子が毎朝立ち寄って、10本位の針に糸を通して裁縫箱に入れておいてくれる。ちょっとだけ息子に迷惑はかけるけれど、おかげで私はこうやって裁縫が続けられて、楽しくてしかたがない」と嬉しそうな表情で話してくれました。長年に渡ってずっと続けてきたことは、基本的に力が落ちないことが多いと言われています。この女性のように、針に糸が通せなくなったとしても、ちょっとした助けさえあれば、ずっと続けることができます。このことが、とても大切だと思いますし、先に述べた「自己効力感」を得て、幸福感や満足度の高さにつながっていきます。

  • ココ
    続けていくということが、ご本人の活力につながっていくのですね。
  • 高山

    長年続けていることによって抱く「自己効力感」は、実は人間の寿命とも関係しているのです。寿命が長い人に、どのような要因があるのかを研究してみると、幸福感が高いことが、とても重要な点として挙げられました。これまで寿命の長さは、健康や栄養といった点に注目が集まっていましたが、実は長生きと幸福感の関連性がとても高いことがわかってきたのです。年を重ねるにつれて、幸福を感じとれるものを見極めながら、幸福感をエネルギーに変えているのだと思います。

  • ココ
    幸福感と外見に対する意識とは、関連があるのでしょうか。
  • 高山

    関連はあると思います。実証的なデータがあるケースでは、「化粧をする」という行為が挙げられると思います。化粧によって気持ちが明るくなったり、表情が豊かになったり、ポジティブな感情が高まってくるという効果があります。以前から高齢者や認知症の人を対象にしたお化粧ボランティアの活動があり、その人に合ったお化粧をすることが大きくプラスに働くと言われています。それは、装うこととも深い関連があると思います。若い頃と比べれば体型は変化していきますが、今のその人らしい装いをすることがとても大切な要素になってくると思います。私が大好きなサイトに、ニューヨークのフォトグラファーが高齢者の姿だけをアップしているものがあります。出ている人たちは皆とても奇麗に装っていて、ゴージャスありシンプルありの若い人にはとてもできない着こなしばかりです。その人たちが積み上げてきた人生の歴史や、現在の体型があるからこそ醸し出される雰囲気を、自信を持った表情で表現しています。

  • ココ
    高齢になるほど、人の目よりも自分の納得感を重視して装う傾向にあるようですね。
  • 高山

    その通りだと思います。日本にはまだ「高齢者はこのように装うべき」という固定的な考え方が残っているように感じます。そこから解放されて「個」をしっかりと出せるようになると、装いも違ってくるのかもしれません。大学に来る時に乗る東横線の中で、70代位のご夫婦や女性同士のお友達の姿をよく目にしますが、皆さんとてもおしゃれです。もちろん靴は機能を考えて底の平らな靴を履いていたりもしますが、その人らしいこだわりを持った装いをされています。自分にとって必要な機能と、自分らしさをわきまえた大人のおしゃれを楽しまれている人が、最近は増えてきたように思います。10〜15年位前、高齢者の人数が今後は増えるからという理由で「シニア向けのファッションコーナー」等を作った店舗がいくつかありましたが、あまりうまくいきませんでした。それは、当時の若い人が「高齢者はこうだろう」という先入観でつくってしまったからだと思います。年を重ねるということは、少しずつ個性が大きくなっていくことですから、一律なものはむしろ合わなくなってきます。それぞれの生活や人生は全く違うのに、高齢者はひとくくりにして考えられがちですが、これからは、自分自身のスタイルを持った高齢者がどんどん増えていくのだと思います。

    高山緑先生(慶應義塾大学 理工学部 准教授)

  • ココ
    はっきりとしたスタイルを持つ高齢者が増えていくのは、社会にとっても大きなプラスになるのではないでしょうか。本日は、大変貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。

高山 緑(たかやま みどり)先生 プロフィール
慶應義塾大学理工学部外国語・総合教育教室准教授。慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院修士課程社会学研究科修了、東京大学大学院博士課程教育学研究科修了。博士(教育学)。臨床心理士。武蔵工業大学(現・東京都市大学)環境情報学部助教授などを経て、現職。専門は、生涯発達心理学。慶応義塾大学学生相談室カウンセラーも勤める。

  1. 高齢になっても、様々な生き方が可能な時代が到来
  2. 今までできたことが、これから先も変わらずに続けられることが重要
  3. いくつになってもおしゃれ心を失わず、楽しく過ごせる社会の実現へ
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